「――門下生など一人もいない、道場とは名ばかりのこの道場を継ぐことなどに、何の意味も感じません」 断言したのを覚えている。 事実だったのも覚えている。 事実であるのも、覚えている。 対する祖父は――苦々しげな表情をした。 怒鳴りつけるでもなく、ただ苦い顔をした。 正論でありながら、受け入れられない事実を、よりにもよって孫に言われたことが嫌だったのかもしれない。 「なんでしたら、どうでしょう。将棋で決めましょうか」 勝てる自身があったからこその、生意気で分不相応で卑怯で不平等な、申し出だった。 対する祖父はさらに苦い顔をして「それでは例え勝っても将棋をさすお前自体を肯定してしまうだろうが」と言うようなことを言った。 その祖父はもういない。 しかし、やはり意味も魅力も感じぬこの道場――この流派。 当主に与えられる木刀――王刀・鋸というのだったか――にも、何の意味も感じなかった。 たかが木刀。 こんなものに固執していた祖父が少しばかり悲しく、ふ、とそれに触れようとする。「触れるだけで背筋が伸びるような気がした」などという世迷言を、あの祖父に言わせた木刀に。 この木刀さえなければ――この流派さえなければ。 自分と祖父は、もっと幸せだったはずなのに―― 「…………」 ぴん。 空気が張った。 否、張ったのは自分の神経の方か。 「あ、ああ、ああああああ……!」 気持ち悪い。 気持ち悪い。 今までの自分が――酷く、気持ち悪い。 「――れん、しないと」 着替える余裕はなかった。 普段着そのまま、刀を構える。 力任せに振るうと、少しだけ気味が良かった。 消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえきえてしまえきえてしまえ――! 「う」 かん、と木刀が、落ちる。 合わせて自分の身体も崩れ落ちた――息が切れている。 気持ちに、体力が追いついていない。 わけがわからなくなる。 ただ、答える声はなく―― 「っ」 再び立ち上がり振った木刀の音だけが、道場に響いた。 |