「悪いこと、したかもしれないわ」



七実は突然そんな風に呟いた。七花には意味がさっぱり分からなかった。





「何がだよ」
「たくさん殺したと思って」






顔はしかめなかった。代わりになのか、七花が顔をしかめる。






「悪いことだよ。姉ちゃんは甘いっていうかもしれねーけど」
「ううん」




視線があった。





「例えば死霊山の人たちは俗世から離れていたし、あの蝦夷の人たちは全滅させたから、文句を言う人がそもそもいないと思うのだけれど」







正確に言えば凍空一賊は、こなゆきが生き残っているのだけれど。黙って、七実が続きを言うのを待つ。







「勿論あのまにわにの人たちだって、しのびだから死んでどうこう言われる筋合いはないし、そもそもあれに限っては正当防衛に近いのだけれど――」






感情の篭らない瞳。




「まにわには特に、あの三人しか殺していないから――もしかしたら友人も、恋人も、妻や子供、婚約者――そういうものが、あったのかと思って」
「それは」




それは、昔真庭蝙蝠を殺した際に――とがめの過去を知ったときに。
七花が抱いた感情と、概ね一緒だった。





「まにわにも全滅させるべきだったかしら」
「いやいやいや」




さらっと黒い言葉を吐いた姉に、少しだけ恐怖を覚える七花。




「まあいいわ……いえ、悪いのかしら。あちらに言ったら謝っておきましょう。私の趣味は草むしりで、虫殺しじゃないし。それだとキャラも被っちゃうし……」
「……よくわかんねえけど、多分それぎりぎりだぜ姉ちゃん」



最後の、となるのかは分からないけれど。
一本の刀として生まれ育てられた姉弟が、他人の死を慮った――自分達の行為について考えた、最初の会話だった。






(気持ち、悪い)(だけどその気持ち悪さは、自分達が背負う業なのだと思った)