こんな肌寒さは今更だ。今更喚く必要も何もない。自分の身体は病に冒されているのだから。
熱で熱くなることはあれど、心地よい体温などになったことはないのだから。
尚且つ、今は夜。夜は寒い。夜は暗い。それが当然。あるいは必然。
所謂無人島だったこの島には闇を照らす明かりはないし、そんな物はそもそも必要なかった。



生存する唯一の肉親、そして無二の自分を愛してくれた家族は、白髪の女と共に旅立った。


彼女の父親は、いや彼女の一族は、自分の父親・そして弟の父親でもあるあの人に殺されたそうだ。
あの人は刀だったのだ。刀として生まれ、刀として育ち、刀として生きて、刀として闘い、刀として死んだ。


そこで少しだけ疑問を持つ。刀として死んだのだろうか、あの人は。
あの人が自分を殺そうとしたのは、刀としてではなく一人間の抱きうる当然の恐怖からではなかったか。



奇策士と弟が旅立って数ヶ月。



彼は未だに刀なのだろうか。人間になってしまったのだろうか。
ならば彼は、自分を見て恐怖を覚えるだろうか。それは人だから、当たり前のように。



「いやね」



ここに帰ってきたとき、唯一無二の弟は自分を殺そうとするかもしれない。
そもそも帰ってきさえしないかもしれない。

殺されることは望んでいることではあるのだけれど、弟に憎まれるのは嫌だった。
この世は既に生き地獄で、彼の存在は地獄に仏。

なぜなら自分は彼を愛しているから。
それは恥ずかしげもなくいう事の出来る絶対的な事実だった。




自分の口から弱々しげな咳が漏れる。そろそろ寝るとしよう。そうしないときつくてたまらない。
少ない体温をあげるように、毛布を身体に巻きつけ、身体を抱くように眠る。



弟のいない家は、何故だかいつもより肌寒かった。









(眠りにつくまで彼のことを考えて、きっと朝一番に彼のことを思うのだ)