「ふふ、血塗れですねえ」 「……少し、手間取った」 「そんな顔をする必要はありませんよ? 責めているわけではないのですから」 喰鮫はその長い髪を揺らしながら、全身(そして勿論彼の物ではない)血で塗れている蟷螂の傍に寄った。 「いいですねえ――いいですね、いいですね、いいですね」 「……どけ、喰鮫。これを洗い流してくる」 「ああ、洗ってしまうのですか、勿体無い」 血化粧がよくお似合いですのに、と面白がるような口調で言う喰鮫。 「男に化粧は必要ないだろう」 「真面目ですね」 そ、と蟷螂の両肩に手が添えられる。 「……何だ?」 「私の名前は、真庭喰鮫です」 「知っている」 喰鮫は何処かが壊れてしまったようないつもの笑みを浮かべ、脚色無く遜色無く血のように赤い舌を蟷螂の頬に寄せた。 そしてそのまま、頬にある赤を舐めとり、自分の舌の色に加える。 「鮫は、血のにおいを嗅ぐと興奮してしまうのですよ」 「……舌の感触が、気持ち悪い」 「それはすみません」 では、と喰鮫は今度は、僅かに蟷螂の頬を噛んだ。 傷などつけないような甘噛で、それでも全身が総毛立つ。 「どけ、喰鮫」 「別に、とって喰いやしませんよ」 「ぬしならありえる」 「……どうでしょうね」 幽か、頬に血が滲んだ。 (その沈黙はまるで死の様で)(それはそれは素敵な妄想) |