「よ、虚刀流」 ぱ、と目を見開くと、そこには真庭蝙蝠がいた。 背景は何故なのだろう。ぼやけていて見えない。 「あ、あれ?」 真庭蝙蝠は、自分が斬ったのではなかったか。 疑問そうに首を傾げる七花を、面白そうに見ながら蝙蝠は言った。 「そうきょどんなよ。これは夢だぜ」 「よくわかんねえけど、夢の側から言っていいのか、それ……?」 「きゃはきゃは、夢なんざ所詮お前の妄想だ。その中で、おれなら言うだろってお前が思ってんだよ」 「? ……よく、わかんねえな」 「ばーか」 憎たらしくそう言われたけれど、事実なので黙っていた。 「ん……まあ、お前の格付けでおれさまが一位だったことだし、許してやるか」 「そりゃどうも」 「で、どうしたいよ?」 「……何が?」 「何がって。いっやー? 柄にも無く、っつってもお前の柄なんておれは知らねえけどさ――落ちこんでんじゃん」 「いや――別に。落ち込んで、ねえけど」 「あっそ。ふうん」 じゃあ分析してみようぜ、と蝙蝠は言った。 「分析って」 「お前がおれをここに呼んだ理由だよ」 なって欲しい奴でもいんじゃねえの、と彼は言った。 「しかも、会いたいけど会えないもしくは会いたくない奴とかな」 「あ――」 浮かぶのは、一人の肉親。 たった一人の肉親だった、彼女。 姉ちゃん。 小さく呟くと、蝙蝠はそれを耳ざとく聞きつけたようだった。 「きゃはきゃは、ちょっと向こう向いてろよ虚刀流」 「…………」 首を傾げたまま、七花は黙って蝙蝠に背を向けて座り込んだ。 敵に背中を向けるなど、剣士としても刀としてもあってはならないことだったが―― どうせ夢なのだろうし。 適当に、許容した。 「七花――」 聞きなれた声が耳元からする。 「……声は真似できねえのかと、思ってたけど」 「そんなわけないでしょう。馬鹿ね」 蝙蝠だというのは知っている、しかし顔を少し上に向けると覗き込んでくるその顔は、姉そのものである。 何故だか衣装まで変わっているし。 「……また口から出したのか?」 「これは夢よ」 そういえば割と何でも許されるらしかった。 「わたしに何か言いたいことでも、あるのかしら」 「……姉ちゃん」 俺は姉ちゃんを殺したくなんかなかったよ、と七花は言う。 殺すときもそうだったし今だってそうだしこれからもそうだ。 聞いていた姉の姿は、馬鹿にするように、笑った。 「なら成功かもしれないわね」 「成功?」 「こちらの話よ――七花」 私は貴方に殺されたかったわ、と七実は言う。 殺されるときもそうだったし今でもそうだしこれからもそう。 呟いた姉の姿は、馬鹿にするように、泣いた。 ぽとぽとと、雨粒のように頬を打つ、涙。 「だから貴方は頑張っていらっしゃい」 勝手にこっちに来たら、お仕置きするわよ。 恐ろしい台詞を残して、姉の姿は段々と消えていく。 何処かで、大切な女の呼ぶ声が聞こえる。目覚めているのだ。 「あれ――」 蝙蝠って姉ちゃんの姿、何で知ってたんだろう。 疑問には思ったけれど、深くは考えなかった。 (きゃはきゃは、中々いい感じじゃん?)(あんまり云うと殺しますよ、ええ、でも感謝はしています) |