貧しいという事が、よくわからなかった。
自分は里に住んでいて、里から出た事など無くて、そして里は平等に貧しかったから。

頭領も、非戦闘要員も。


全員同じように、貧しかった。


だけれど貧困を自覚するには、まず裕福の経験が必要だったのだ。


「――えぜっう」
「どうしました?」


分かっているくせに。
そう言うと、少年は楽しそうに笑った。





下に広がる、幸せの図。
豪華絢爛、一家団欒。
楽しそうに笑う標的。



「明るいですね暖かいですね幸せそうです、ね」
「なだ」




それが合図。




「か物い食に当本れこ?」
「きっとそうですよ」


血の惨劇にある食堂、そこに並んだ大量の食事。
少々不安に思いながらもそれを口に含むと、食べた事もない濃厚な味が広がる。


「い味不」


そんな風に嘯くと、しかし隣の少年は真剣な顔をして頷いた。
それから二人沈黙のまま、帰路につく。


唇を噛み締めているのがばれたのか、隣の少年は「泣いてもいいのですよ」などと、再び嘯いた。
「ね死」と搾り出すと肩をすくめられる。


里に入ったところで、くるりと振り返ると少年は大仰に頭を下げた。


「おかえりなさいませ」


その頭をはたいてから、里を見渡す。
里は暗く、寒く、寂しく――幸せだった。


(そう思ったんだ、とにかく)(言い訳じゃないと信じてる)