七花は何の脈絡もなく、無人島に残してきた姉の事を思った。

それはなんだか物悲しくって、所謂ホームシックにも似た感情で。
面倒くさい、心の中で呟きながら瞼の裏に姉の姿を映す。



姉は大丈夫だろうか。
(大丈夫に決まってる少なくとも俺が一人で残るよりは)


いつもやっていた水補給、今は姉がやっているのだ。
(それがどうした最早ばれてしまったのだから同じ事だ)


寂しくないのだろうか。
(とがめが来ずとも姉は自分を外に出そうとしてたそんなことがあるわけがない)



そもそも心配すること事態が一種の自惚れだ。
自分なんかに心配されるまでもないほど、しっかりしているのだ鑢七実は。
そう分かっているのに、それでも七花は慣れない思考を重ねた。


「会いたい、なあ」


熱を出してないだろうか。倒れていないだろうか。傍にいないことが余りにも不安だ。

実際自分が傍に居ても居なくても、姉は自身で全てを解決してしまうだろうけれど。
自分に出来ることなど皆無だと知っている。知っている。知っている、はずだ。


自分が居なくなった後。鑢七花が不承島を去った今。
今彼女は何を考えているだろうか。何をしているのだろうか。自分の居ないことに何か思いを馳せてくれた?



「七花っ! ちょっと来い!」
「なんだ、とがめ」



それでも彼女の後を追う。自分は彼女を選んだのだから。自分は彼女の刀なのだから。



ならば姉は――誰の刀なのだろうか。



誰の刀にもなれなかった刀は、どうなるのだろう。
分からなかった。



「とがめ」
「なんだ?」
「使われない刀は、どうなるんだ」

奇策士は質問に少し眉を顰めてから、


「錆びるだけだろう」
と言った。



ああ、姉は、鑢七実という一本の日本刀は錆びてしまうのか。
それはどうしようもなく悲しい考えだった。


だけれど。


もしかしたら錆びる方がいい事もあるのかもしれないとそんな考えが浮かんできて――結局その真意は、しばらく先になるまで七花にわかることはなかった。







(錆びてしまえば人間になれたのだろうかならばそれを望んでいるのではないか)