「蝶々さん。僕が死んだらどうしますか?」


暇つぶしのように問う蜜蜂。同じく、暇つぶしのように答える蝶々。


「さあ。泣くんじゃねえか」
「嘘だ……蝶々さんは泣かない気がします」
「決めつけんじゃねえよ。いや、たぶん泣かないと思うけど」
「ほら」



蜜蜂は楽しそうに笑った。蝶々は、多少決まり悪そうに笑った。



「だってそうだろうぜ。お前だって俺が死んでも泣かねえだろ」
「そうですね。たぶん、泣きません」


ほらみろ、と今度は蝶々が言う。それからふ、と空を見上げるようにして呟いた。


「昔聞いた異国の話でよ、生まれるときは違えど、死ぬときは一緒だって誓いを立てた連中がいたらしいぜ」
「へえ。そうなんですか」
「そういう、さ――死ぬ誓いが立てれる自由ってのは、少しだけ羨ましかったよ」



しばらく黙り込んでから、蜜蜂が冗談めかして言う。



「じゃあ、僕たちも立てますか、その誓い」
「かっかっかっ……いいかもな、それ」



適当に言ってから拳をあわせる。



「死ぬ時は、一緒です」
「ああ、一緒だ」



だから蝶々は、その先を言わなかった。
昔聞いた異人の逸話――その誓いは果たされなかった事。
結局彼らは、てんでばらばらに死んだという。
生まれたのと同じに、同年、同日、同時刻に死ぬ事など出来なかったそうだ。




自分達も同じだ。




決して同じときに死ねなどしないだろう。蜜蜂が死んだ所で自分は生きる道を模索するだろうし、それは蜜蜂も同じはずだ。虫組頭領、真庭蟷螂辺りが聞いたら冗談と知っていても先の誓いに眉を顰めるだろう。


それでも自分達は互いに嘘と分かりながら誓いを交わす。
滑稽で滑稽で、笑い出したくなるほど切なかった。




(一緒に死んでくれなんて言えない)(それよりお前には生きて欲しい)