「左右田右衛門左衛門」
「なんでしょう、姫さま」
「呼んだだけ何だから返事しないでよ、気持ち悪い」




ぱん、と扇の裏から何かを投げられる。


「動かないでよ」


そう言われたので動かずに居ると、そのまま頭部に軽い衝撃があった。




「……本当に動かないのね。驚いた」





自分で言っておきながら、女は実に楽しそうに笑った。





「それ、あげないこともないわ」
「……これは」




白い仮面。
大きく、不忍の文字。
忍ばずの――文字。





「まだ忍者で――相生忍軍みたいなどうでもいいので居たいのなら、別に構わないけれど」




あげるって言ったでしょう、『不』の字。
また、場違いな程に明るい声。




「………………」




答えの代わりに仮面をつけると、笑い声がまた大きくなった。




「……似合いますか」
「全然。陰気さが増して気持ち悪いわ、そうだあんた天井裏にでも行ってたら? 結構いい感じよ、多分」
「………………」



黙って天井裏に行くと、下からの声は思いの他はっきりと聞こえた。




「あははははっまさか行くとは思わなかった、わたしはあんたみたいなの大嫌いよ。仮にもわたしの下で働くんなら、否定の一つも覚えなさいよ――まあ、」




ぱん、と扇を閉じる音。




「よろしく、左右田右衛門左衛門」
「よろしくおねがいします、姫様」
「あーあ、今の否定の前フリだったのに」
「……例え前フリでも、姫様にそう言われて返さぬわけには参りません」



またおかしそうに笑って、



「ちゃんとできるんじゃない、否定」




否定姫は天井を見上げたようだった。