「お、いーたん、答えわかったんだ?」
「答えわかるも何も無いですよ……哀川さん。運試し何ですから」
「まあそう何だけどよ。もう言いつかれたけど苗字で呼ぶなな」
「ところで、何でこんなところにいるんです?」



広い――ホールのようなスペースである。
真ん中に大きなクリスマスツリーがあった。
まるでパーティ会場とでも言った雰囲気だ。
一番前には舞台があって、その上に哀川さんは立っている。



「何となく? いやあ、人の居ないパーティ会場っつーのもオツかと思ってよ」
「ぼくは空しさしか感じませんけどね」
「うん、あたしもちょっと寂しいなーとか思ってる」
「ああ、そうなんですか」
「だからいーたんが面白い事言ってくれんの期待してる」



うっ。
ハードルをあげられてしまった。



「ご期待にお応えできるよう頑張りますよ。それでは――戯言といきましょう」



まあ、運試しなのだ。
正解ならぼくに得はあるが、不正解でもぼくに損はない。
だから適当に、オチについて考えてみただけの話――



「あ、ちなみに間違ってたらいーたんがミニスカサンタだか「聞いてないですよ!」
「言ってないもん」



嘘お。




「まさかいーたん、自分に損が無いからってあたしからの問題を適当に考えていた訳じゃねーよな?」
「ははは、何を言ってるんですか潤さん。このぼくがそんな駄目な人間に見えますか」
「ぶっちゃけ駄目な人間以外の何に見えるんだって感じだが……ならいいだろ、答え聞かせろよ」



ふう、と一息つくとぼくは語り始める。




「まずぼくが気になったのは、凶器となった灰皿です」




――凶器は灰皿だった事。
力が強すぎた余り、その灰皿は割れてしまっていた事――






「灰皿っていうのは、ドラマなんかでの凶器の常套ですよね――それは何故かと言うと、灰皿が、日常的に傍にある鈍器だからです。突発的に人を殺す場合なんかでよく使われます。しかし、今回のこれは突発的な物ではない」
「ふうん? どうしてそう思うんだ」
「出夢君は煙草を吸わないからですよ」



そして、煙草保持者の為に灰皿を用意してる性格でもないだろう。



「つまり、犯人は重たい灰皿を態々持ってきたことになります――計画的犯行だったんです」
「ほお。それで?」
「それだけですよ」




その答えに、哀川さんはにやりと笑った。

それだけだ。計画的犯行か突発的反抗かなんて――裁判では役に立つが、それだけだ。
それ以上この話から、得る物はない。






「次に考えたのは――被害者が出夢君だということです」



《人喰い》、殺し屋の匂宮出夢。
彼を殺せる人間は、限られてくる筈だ。




「まず、潤さん。あなたがあげられます」
「……そりゃそうだわな」
「あと、想影真心。あいつならやってもおかしくはありません。他の人間の強さの順位がどれぐらいなのかぼくは知りませんが、少なくとも『殺し名』や、それに順ずる存在という事は確かでしょうね。理澄ちゃんや、深空ちゃん高海ちゃんは除いていいんでしょうけど」



みい子さんや鈴無さんなら出来そうな気もするけれど――流石に、ねえ。
相手は匂宮出夢なのだから。



「そうとも言えないんじゃねえか。特に理澄を除外するってーのは解せねえな」
「確かに理澄ちゃんなら、出夢くんを油断させることが出来ます。拘束衣を着ているから、というのもありますけど、その辺はどうとでもなりますよね。だけど、」





一つどうしようもない問題がある。






「理澄ちゃんの力じゃ、人一人殺せないんですよ――特に、匂宮出夢相手では」



これは、単に力の絶対値の問題だ。



「姫ちゃんや崩子ちゃん何かも、これで除けると思うんですよね」



哀川さんは微笑んでいる。
正解だからなのか、間違っているからなのかは読み取れなかった。
ただ、彼女は「で?」と話の続きを促した。





「いえ、これで終りです」
「終りなのかよ。じゃあ何だ今の前フリ」
「先に言ったじゃないですか――戯言ですよ」




ぼくは――無いに等しい記憶力で、このふざけた文章を貰った時、彼女が言っていた事を思い出す。





「潤さん、言ってましたよね――『これは問題だ』って」






――『それは問題なんだよ、いーたん』
『問題? この小説とも付かない文章がですか?』
『ああ、問題だ。解答される為だけに存在してる、問題だ』――






「これが問題だと言うならば、ぼくはこう答えるしかないんですよ――『解答なし』とね」




解答が出てこない問題には、解なしと答えるのが正しい。
不確定要素が残ったままの、あてずっぽうの解答は許されないのだ。




ただ、哀川さんの言葉にはもう一つ――裏がある。





「しかし、これを問題とするなら、設問は『フーダニット』」




――『解答って――何を答えろと』
『そりゃ勿論、一応探偵小説の形態をとってんだから――フーダニットさ』――





「フーダニットは『Who had done it ?』の略で、これは直訳すると『誰がそれをやったのか?』です」





ぼくは、それを聞いて、犯人当てだと思った。

それで正解なのだ、この小説が推理小説であった場合は。
しかし――残念ながらこれは、推理小説なんかじゃない。





――『……これだけの情報から犯人なんて当てられませんよ』
『つっまんねー男だなあ。当てなくてもいいんだっての』――






「そう、犯人を言い当てる必要なんか無いんです。あなたは一度も、犯人を当てろなどとは言っていない」





誰がそれをやったのか?






「そんなの作者に、決まってる」




――『一体誰が書いたんですか?』
『あたしだけど』――






「だから――この問題の解答は、哀川潤さん。あなただ」





推理小説で犯人が人を殺すのは誰の所為だ。
探偵小説で犯人が人を殺すのは誰の仕業だ。


そんなの、作者の所為だろう?
全ては予定調和なのだから。





「もっとも、これには言い逃れが出来ないわけじゃありません。もしかしたら、潤さんが小説を書いたことすら――狐さんの言うところの物語の作者によって作られた筋書きだとするなら、犯人はそちらになりますね」




まあ、便宜上『管理人』とでも呼ぶとしよう。
特に意味はないけどね。


………………。


いや、特に意味はないったら。



「ただ――ここで、ヒントが生きてくるんですよ」






――『ヒント1:犯人は戯言シリーズ内の登場人物です』――






「管理人は戯言シリーズ内の登場人物ではない。だから結局」





あなたが犯人です、とぼくは言った。
哀川さんは、両手を挙げた。
それは降参のポーズだった。




「よくそんな下らねえ解答思いつくよなあ……」
「戯言ですから。後はまあ、本当言うと最初から気になっては居たんですよ」
「犯人があたしだって?」
「そうなります」
「それは出夢が被害者だからか」
「それも無いでは無いですけど――この文章にあるこの部分です」





――うつぶせに、右手は何かを掴むように、頭の横に伸ばされていて、左手は体の隣に横たわっていた。――





「犯人当てならベタにダイイングメッセージかと思いまして。右手は何かを掴むようにしていたんでしょう? しかし、何かを掴んでいたわけではないらしい。少なくとも、掴んでいるようには見えなかった――」




だけれど。




「もしかしたら出夢くんは、何かを掴んでたんじゃないのかと、思ったんですよ。それが固形物でないから、気づかれなかっただけで」



それは何だ?



――全体を、血に浸していたそうだ。
手の指の先まで、ぐっしょりと。――





「出夢くんは血を掴んでいたんじゃないんでしょうか」





血から連想されるもの。
鉄の匂い。
死の匂い。
そして――深紅。


深紅――真紅だ。




「血は変色したら赤くなんかないですけどね。彼がダイイングメッセージを残した瞬間ならば、その血は赤かった筈ですよ」
「ま――赤と言えばあたしだもんな」
「そうなります。まあ、二つ思いついて、その二つともが潤さんを指してるんですから――確信を持ったというわけです」
「成程ね」
「ちなみにどっちが本当の推理だったんですか?」
「こんなん推理じゃねえだろ。どっちから行き着いたって正解だ――ただ、両方気付かれるとは思わなかったぜ」
「まあ、それは予定調和という事で。にしても潤さん、こんな下らない問題、一体誰が――」
「さあ、お前がさっき名づけた『管理人』とやらの仕業だと思っとけよ」




そう言うと哀川潤さんは上げていた両手を使い、全力でぼくを叩いてきた。
ああ、降参のポーズじゃなくて臨戦態勢だったんですね。




「あ、潤さん。それよりミニスカサンタです。正解したんですから」
「……お前もしかして、それ見たかったから必死だったんじゃねえか?」
「そんなわけありませんよ潤さん。ぼくは単に潤さんとじゃれるのが楽しかっただけです」
「ふうん……怪しい。まあいいや、待ってろ」



そう言うと哀川さんは、舞台袖に消えた。

わくわく。

ちょっと緊張するぼく。






「お待たせー」





眩しい。
それが第一印象だったかもしれない。
防寒などまるで考えていないような、丈の短いスカート。
セパレートタイプになっていて、上も極端に短く、ノースリーブである。
引き締まった二の腕――美しい曲線を描いた太股。
力強い生命力すら感じられる体躯。
何となく――ギリシャ時代の彫刻すら思い起こさせる。
神の作った最高傑作と言うより――神そのものを思わせた。




……って、あれ?





「潤さん、あの、視覚的に見せてはくれないんですか?」
「視覚的に見てるじゃねえか」
「いや、それはそうなんですけど」
「おいおいいーたんよく考えろよ。ここ小説サイトだぞ。絵なんて描けるか」
「潤さんそんな事言わないで下さいよ……」
「管理人とかぼやいてた奴に言われたくねーよ」





その時。
ホールに備え付けられた扉が、元気良く開かれた。





「あーししょー先に来てたですかー!」
「……探してしまいました」
「いっくんは薄情だねえ」
「そうですよ、いー兄。先に来てるんならそう言ってくれなきゃ」
「ん……まあ、結局置いてくる判断をしたんだがな、いの字」
「別にいいと思うんだわさ。結果オーライのようだし」


「ぎゃはははっ! やっほーおにーさん!」
「久しぶりなんだねっ」
「いーちゃんいーちゃん、俺様もいるんだぞ!」
「ふん。余りはしゃぐとこけるぞ」
「何で俺まデ……」
「ううううう……あたしがこんなとこいちゃいけないよね、分かってたのにそんなこと、皆一応気を使って誘ってくれたって分かってたのに……馬鹿だよね、あたし。ごめんなさいごめんなさい。ノイズ君もあたしが居るから来たくなかったんだよね……」
「あーもうドクター、別に誰もあんたの事嫌がってないさ」
「ほらっノイズ君が余計なこと言うからだっ」
「いーじゃんそんなのは。折角のクリスマスだし」
「クリスマスだから」
「クリスマスだから」
「それで解決してしまうのですね」


「ふふ。クリスマスパーティとは中々十全ですわ」
「元来クリスマスはキリスト生誕の祝いですが、そんなものが建前になってきている近年ではこういう事も悪くありませんね」
「ぎはらわ先輩……おなかすきましたあ……ゆらり」
「おい。何で腹減りながら俺に襲い掛かろうとしてんだ玉藻。そのうち飯でてくっから大丈夫だっつーの」
「人識君はモテモテなんですね。兄がモテモテで妹は嬉しいですよう」
「モテモテとは絶対意味が違うと思うっちゃが……まあ、いいっちゃかね」
「そうだよ別に構いはしない、何せ今日はクリスマスだからね!」
「ああ、もう日付が変わったのか――悪くない」


「……潤さん」
「人の居ないパーティ会場もオツかと思ったんだけどよ。中々寂しかったから、呼んでみた」



「――いーちゃん」



この声に、ぼくは振り向いた。




「メリークリスマス、いーちゃん」
「ああ、メリークリスマス」




えっと、再び謝罪を。
下らない遊びに付き合わせてしまって、すみません。
せめて幸多からんことを願っております。



皆さん、良いクリスマスを。






* * *






「出夢くん本人が犯人って予想が一番多かったよ」
「ぎゃはは、僕の自作自演? それともドジっ子設定追加かな!? 萌えちゃう萌えちゃう?」
「自分から『萌えちゃう?』とかいう奴には萌えねーよ」
「そう拗ねんなよ人識」
「そうそう零崎。ちなみに君の犯人予想が二番目に多かった」
「マジで」
「もう僕と言えば人識、人識と言えば僕だから仕方ねえよなー」
「そんな方程式何時出来たよ……ったく、傑作だ」
「狐さんにも票が入ってましたよ」
「『狐さんにも票が入ってましたよ』。ふん。どうなんだろうな、それは」
「狐さんに僕が殺せるかい?」
「試してみてやろうか、出夢」
「いやいーや。狐さん怖−もん! ぎゃははは!」
「理澄ちゃんって予想があったんだけど」
「……例えフィクションでもそのオチだったら僕暫く寝込んでるぜ」
「あ、兄貴っ大丈夫なんだねっ! あたしは兄貴を殺したりしないんだねっ……多分」
「理澄!?」
「冗談だねっ! 兄貴、大好きっ!」
「僕も理澄大好きー!」
「おいイチャつくんじゃねえよ兄妹。真心だって予想はあったけど、あたしだって言うのは一人もいなかったなー」
「俺様潤と違って暴力的じゃないふぁふぁ、ふぃとふぉふぉろふぃふぁんふぇ」
「潤さん、頬引っ張るのやめないと何言ってるかわかりませんよ」
「最近こいつ生意気になってる気がする」
「ふゅん、ふぁなふぇー! ふぁふぁふぃきふぁんかふゃふぁい! ふぉれふぁまふぁ」
「真心もその状況で無理に話すな」
「いの字、ここって煙草吸っていいのかしら?」
「ああ鈴無さん。別に構わないと思いますけど……そう言えば、喫煙が公式設定なのって鈴無さんだけですよね」
「そうかも知んないわねえ」
「だから鈴無さんだって推理もあったんですよ?」
「ああ、まあ多分アタシなら灰皿で殺せる気もするけど」
「試してみないでくださいね」
「するわけないでしょ。いの字、あんた何考えてんの」
「すみません」
「ドクターが僕を殺してたかも知れないんだって?」
「ふえええ!? あ、あたし殺してないよ、殺してたら今すぐ治すから早く言って言って!」
「じょ、冗談だよドクター……ていうか治せるわけ?」
「治せ、ない……うう、ごめんなさいごめんなさい。嘘ついてごめんなさい嫌わないで……!」
「嫌わないって。ドクターだったら僕が油断するかもって話なんだぜ?」
「……油断、するの?」
「ぎゃはは、するかもな。ドクターいい奴だし!」
「そ、そんな事行ってあたしのこと騙す気何だわ、その後に皆で笑うつもりなんでしょうわ、わかってるんだから」
「なーなーおにーさん、これって一種のツンデレじゃねえ?」
「どっちかって云うとヤンデレっぽいけどね」
「はいっフレンチクルーラーなんだねっ」
「くれるの?」
「勿論なんだねっ」
「えへへ……ありがと」
「うわー和むー」
「ねえいーちゃん、いーちゃんが犯人って言うのもあったんでしょ?」
「あったよ。まあ、探偵が犯人っていうのもありだからね」
「ミステリも意外な犯人を沢山捻出してきましたからね」
「探偵が犯人、被害者が犯人、語り部が犯人、警察が犯人、全員が犯人、などでしょうか」
「何か難しい話してないで食べるですよー! ケーキきたですよー!」
「ああ、それじゃ食べようか」
「はい、手を合わせて」
「手合わせるの!?」
「メリークリスマスっ!」