呵呵大笑。哄笑。或いは嘲笑。威勢のいい笑い声が、只管にカンに触る。


「軋識は愚かだ!」


一通り笑い終わった後、女は、家族は、零崎は言い切った。
首から下がった十字架が、鈍色に光っている。


「何が軋識を追い詰める? 二つの自分を使いこなす事の苦労? 自分の二面性という背徳性を抱え込む徒労? それとも全てに対する疲労?」
「うるせえ――っちゃ。殺されたくないなら、黙ってろ」
「家族に殺すなんて言わない方が身の為だ。出来ない事は、言わない方がいい。出来る事だって、そういう事は言わない方がいい」
「なら黙れっちゃ。お前の発言は、害悪だ」
「害悪であっても罪悪で無い限り私は自分の行動を止めたりしない。それに、軋識」

軋識が私を呼んだんだろう、と女は言う。

「と言うことは、軋識は苛められたかったのだ。私が与えるのは狂気と殺伐だけだから。私は潤いだとか癒しだとか、そう言う物を与えられない」
「ああ、そうっちゃね――お前みたいな嫌な奴がいるんだから、そんなに気にする事はねえって――思いたかったんだろうよ」
「そうか。嫌な役を仰せつかった。まあ私は軋識になんか興味がないから別にいい」
「お前は何でも興味がねえっちゃろ」
「そんな事はないよ。私は神様って奴に興味がある」

そんな奴いねえよ、と言ってやると、は酷く嫌そうな顔をした。痛快だ。

「いるに決まってる。何故なら私は彼に片思い中なんだ」
「へえ」
「そして私は将来彼と結婚する!」
「女だったらどうするっちゃ」
「スペイン国籍を取得して結婚する!」
「ポーランドに行ってしまえ」
「まあだから、私は神様を愛すのに精一杯だから、愛すべき家族の軋識にまで愛が及ばない。ごめん」

そこだけは本当に申し訳無さそうに、女は謝った。

「だからまあ、愛してないし興味がないから、軋識が罪悪感なんて感じても知りやしない。私は軋識のこっち側しかしらないから、軋識が向こうで何をしてるのかなんて知らない」
「――ああ」
「だから軋識を憎いだとか思わないし、恨まないし、裏切られたなんて叫ばない」

私が嫉妬するのは神様だけで、神は私を裏切らない! 言い切った女はやはり狂っている。

「そうだっちゃ――お前を呼んだのには、訳があるっちゃ」
「何?」
「お前を見てると、俺はまだマシだって思える」
「まあ、理解できないほど壮大な者を見て、それを哂うのは人の常だからな」
「ある意味壮大だっちゃけどな。妄想が」
「愚か者に言われたくはないよ! 嗚呼軋識は愚かだ!」
「狂ってるより、マシだ」

ぱふ、と女が抱きついてくる感触。

「軋識の愚かな叫びが聞きたい。軋識の嗚咽だとか悲鳴が聞きたい。愚神礼賛、愚かな神の礼賛者、ねえ、泣いてよ。軋識。泣いて叫んで悔やんで苦しんで、出来ないなら笑って?」

幼児に退行したように、甘えるように体を密着させる女。
だから自分は、女と同じく――呵呵大笑した。

抑圧された貴方の悲鳴を私が飲み込み