「匂宮は、どう、して、こんな、事、やってるん、だろ、ね」


途切れ途切れという表現が正しい言葉。マンション。一室。血の惨劇。
吐き気を催しそうな赤い部屋、空気の入れ替えでもするように気軽に、少女は窓を開いた。


鮮やかな部屋に、くすんだ空。
赤い部屋に、蒼い空。


「ぎゃははははっ! 馬鹿だな、は!」


少女の疑問を笑い飛ばすのは、少女の形をした青年。


「出夢は不思議じゃない?」
「不思議じゃないよ。馬鹿だなあ、疑問に思っちゃ駄目何だよ。考えちゃ駄目、でも感じても駄目! ぎゃはは、だってそういうもんだろ、僕らは殺し名匂宮! 暴力の世界に生まれたんだから、暴力で蹂躙して君臨するしかないじゃん?」
「でもさ――普通の、世界では」
「普通の世界では? そりゃあ奇態で奇特な接頭語だね! じゃあ僕のかねてから疑問何だけどさ、どうして普通の連中は人を殺さないわけ?」

少女の形をした青年は、高らかに死を歌い上げる。
少女はただの傍観者のように、或いは観客のように、その詩歌に只管耳を傾けた。



「何故人を殺してはいけないんですか――なんちゃって! まあそれぐらいなら僕でもわかるよ、知り合いが殺されたら哀しいし自分が死んだら嫌だし皆が皆殺し捲くったら社会はぼろぼろだしじゃあいっそ殺すのなんて無しにしようぜそうじゃないと成り立たないから! ぎゃはは、じゃあさ、僕らが殺しちゃいけない道理なんてなくないかい?」

僕らは知り合いが殺されたら哀しいし自分が死んだら嫌だけど皆殺し捲くってそれでも社会がなりたってるんだから――と哄笑と共に歪な論理は産声を上げる。


「いや、それとも成り立ってない状況が成り立ってるからいいのかな? まあどっちでもいいけどさ。で、何何。匂宮さんちのちゃんは一体何が不満なの?」
「不満じゃないよ――哀しいだけ」



私、人、殺したくないんだ。


許されざる告白は淡々と紡がれる。
涙のように、淡々と。



「血のにおい、骨のなる音、肉の裂ける感触、命乞いとか断末魔、弛緩と痙攣、勿論死体、全部嫌い」
「ふっうーん……おっけー。匂宮。《躊躇う哲学(ポジティヴィズム)》、僕の可愛い親戚ちゃん。匂宮が何でこんな事してるかって――そりゃ昔こんな事始めちゃったからだろ?」
「殺し屋家業?」
「そうだよ。始めちゃったから終わらないんだよ。終わらすのって面倒じゃん? ていうか、何かを変えるのって面倒だろ? 所謂慣習? 伝統? 惰性かな?」
「そう――」



ああ、殺したくない。
少女は開け放たれた窓から大きく身を乗り出して――叫ぶように、そう言う。


「楽しんで殺せばいいじゃん。そしたら、楽しいぜ?」


親戚のそんな言葉も耳に届かないと言う様に、少女は弛緩して、笑った。

ギリギリと錆びながら踊る自動人形