はじめてのおつかい1.

「買い物に行ってくれないかい」とそれは唐突なお願いだった。

いや、買い物に行くぐらいの事で逐一前振りや伏線の類は不要だろう事は簡単に想像がつくので、唐突で然るべき、要約すると悪くない。
他ならぬ家族の頼み事という訳で、とりあえず無言で了承してみた。

別にかまわないのにわざわざお金を渡されて、じゃあいってらっしゃいと世話焼きの長兄は手を振る。
何を買ってくればいいのかわからないと気がついたのは、マンションを出てしばらく、新しく出来た妹と出会った時だった。


「あ、曲識さん」



珍しいですね、とどこか角ばった言葉。別に悪くないのでそこには触れずに「悪くない」と返した。


「私はお兄ちゃんからのオツカイを頼まれてるんですよう」
「奇遇だな、僕もレンからおつかいを頼まれている」
「だけどお兄ちゃんってばうっかりしててるみたいで、お金を貰ってないんですよー」
「僕は何を買うか教えてもらってない」

つまり今舞織と自分は補完関係にあるのだろうな、と思いながら歩き出す。


「ちょ、ちょっと曲識さん」
「何だ」
「戻らないんですか?」
「行かないのか」
「行くってー」
「買い物」

舞織は頭を抱えて「うなー」とうなってから、自分の隣に大またで追いついてきた。


「乗ってあげますよお兄ちゃん……」

呟いた言葉の意味はわからないが、それも悪くない、とだけ思う。