「うー」
「いお」
「うあー」
「がうろだんてっつっいお」
「きゃはっ」
「………………」



呑ませ過ぎた。後悔はいつだって後にやってくる。
当たり前だ。





後悔先に立たず、後悔後を絶たず。






特に意味もない(そして上手い事いってるっぽいけど全然役に立たない)格言を思い出す。
目の前にはへべれけに酔っ払っている友人。



の、筈の男。



たぶん。









「かたっか弱酒前お?」
「んー? 弱くねーっつーの」






ようやく言葉らしい言葉が返ってきた。
しかし体はゆらゆらと今にも倒れてしまいそうである。
頬も高揚したように赤く染まっており、艶っぽい雰囲気だった。








「てーかお前が呑んでなさすぎなんだろーほら呑めよ」
「やい」
「きゃはきゃは、俺の酒が呑めないのかー」







矢張り酔っているようだ。
杯を大きく差し出した蝙蝠は、その勢いで思いっきり前につんのめる。
向かい合うように酒を煽っていた二人、当然蝙蝠の前には白鷺が居て。

杯に入っていた酒は重力に逆らわず、零れ落ち、白鷺を頭からぬらした。
続いて勢い余った蝙蝠が、白鷺の上に覆いかぶさる。
それを何とか抱きとめてから、不機嫌そうに白鷺は言った。





「えめて」
「悪いー……濡れちまったな」






少しも申し訳なさそうじゃなくそう謝ると、蝙蝠は。






「っおい!」






髪の毛から滴り落ちて、頬を塗らしている液体を――その長い舌で舐めとった。








「うま」
「のつっえねくまう」








再び頬を舐めようとする蝙蝠の頭を固定して止める白鷺。
蝙蝠はつまらなさそうに唇を尖らせた。







「んだよー」
「な散解ろそろそ」
「やだー」







白鷺の体に抱きつく形で、しがみついてくる蝙蝠。
苛々としながら、白鷺はその体をひっぺがそうとする。







「けどらかいい」








しかしまあ、苛ついたのは本当だけれど、別に嫌だったわけではなくて。
むしろ嫌じゃなかったからこそ、この場合は問題なのだった。



体が熱い。
酒の所為だけでは、ないはずだ。








「ちっ……何だよー」









普通そういったら手を離しても良さそうなのに、蝙蝠はそのままの体勢を維持している。
というか、力は尚一層強くなっていた。







そろそろやばいかもなー










とか微妙に場違いな、のんびりした本音のようなものが頭に響く。
そしてその次の瞬間、自分は何の意図も意思もなく、蝙蝠に口付けていた。







「ふぁ……」











予想通りと言うかなんというか、抵抗がない。
かんっぺきに酔っ払っているのだ。
それに乗じて好き勝手するのはよくない。よくないだろう。





よくないと、わかってはいるのだが。








「はえ?」
「にのたっつっけといどらかだ」








抱きついたままだった蝙蝠を押し倒す。
しかし普段の自分にこんなことができるとも中々思えず、そう考えると自分もまた酔っているようである。







「しらさぎ……?」








不思議そうで不安そうな、酒の所為で舌たらずになっている喋り方で名前を呼ばれる。
そうすると何処かで止めておけと何かが諭してきた。







今なら引き返せる。


そう思い、彼を床に貼り付けにしている手を離そうとした。
しかしそれは不可能になる――よりにもよって、蝙蝠自身の手によって。






「白鷺溜まってんのか? 俺によくじょーしちゃってる?」
「えせるう」





白鷺の腕を握って固定した蝙蝠は、酷く扇情的に笑った。








「いいぜ――抱いても」








そしてそれは、何とか持ちこたえていた白鷺の理性を、崩壊させた。









* * *













「ぁ……ん」








理性なし遠慮なしお構いなしな接吻を首筋に落すと、耳元で甘い声が聞こえた。


そのままゆっくり唇を下へと這わせつつ、下肢をまさぐる。
酒の所為かやけに敏感になっている体をやんわりと撫でれば、面白いほど簡単に腰が反った。
だらしなく下ろされていた腕が白鷺の後ろに回され、性感帯付近を触れられるたびに爪を立てる。
その腕は既に燃えるように熱い――もっとも、自らの腕もそれぐらい、もしかしたらそれ以上に熱いのだろうけれど。








「ちょ……白鷺、はや……いっ」
「がうろだ前おはのたっ誘」







それでもまだ何か言いたさそうな蝙蝠――しかし完全に熱くなっている頭では声を聞くのも面倒で、直接性器に触れる。
手順など何も考えていない、乱暴な動作だった。



これじゃまるで獣だ。
自分は鳥組なんだが――とよくわからないつっこみが頭の中で入る。
やはり、酔っているのだ。








「ぃ……ぁあっ」








触れている性器からは次々と蜜が零れ落ち、そうっと握ると蝙蝠の瞳から涙が流れた。
しかし恐らくは生理的な物なのだろう、それを証明するよう、唇は快楽につりあがっている。
なんだかその笑みを見ていると急速に熱が冷めていく気がして、中に指を差し込んだ。








「はっ……ぁん」








一瞬苦しげに歪めた顔が少しだけ愉快で、問答無用で挿入した指で内部をかき回す。






「ゃ……っあ」








子供がいやいやをするように首を振られるが、今そんなことをやられても誘われているようにしか見えなかった。
更に二本目と三本目を無理に差し込み、段々と緩くなっていく様を堪能する。
僅かに奥に触れるたび、蝙蝠の甘さを含んだ喘ぎが聞こえるが今は構っていられない。



そのうちに我慢が出来なくなり、指をすばやく抜いた。
卑猥な水音が一瞬だけ止まり、蝙蝠が僅かに息を吐いたその時。





「やっ……ぁっ」









前触れも前置きもなく、蝙蝠の足を大きく開かせると先程まで指を入れていた穴に、いい加減焦れている自身を挿入する。一際大きく体が反って、一瞬腕が背中から離れたがそれも一瞬ごと。
直ぐに強く抱きつかれ、襲ってくる快楽に耐えるように力が入る。









「力抜け馬鹿っ」
「るさ……っん」






白鷺が喋ったことで僅かに緩んだ力を見逃すことなく腰を動かし更に奥に突き入れる。







「あぁ……っ!」







叫び声とも取れる喘ぎと同時に蝙蝠は果てて、それに誘発されて自身も射精をする。
酒の勢いでやったせいか気分は随分と落ちていて、そのまま蝙蝠に覆いかぶさるように瞳を閉じた。





明日になれば、彼が全てを忘れていることを望みながら。
あるいは――決して酒の所為だけではなかったのだと、彼が理解してくれるように。





惚れた腫れたは――素面の時にやっとくべきだったのだ。



後悔先に立たず、後悔後を絶たず。









相変わらずそのとおりだが役立たずの格言が頭に浮かぶ。
僅かに瞳を開けると、幸せそうに目を閉じている蝙蝠が見えた。




「るてし愛」




とりあえず酔った勢いで本音も言っておく。
毒を喰らわば、皿までだった。